追加考察 ルカ&ウルガー編③ (公式ミニファンブックを読んで)
①②の続きです。
①②をお読みいただいた方のみこの先へどうぞ!
平行線の終着
では、この先もずっと二人は独り身のままなのか。
ウルガーには悪いですが、私は、以上の流れからルカの傷ついた心を癒せるのはやっぱりあのキャラだけなんじゃないかと思っています。
そこで、ラストは例によっての壮大な妄想劇場で締めたいと思います。
※今回思いが溢れすぎて超・・・長いです。お時間に余裕のある時にどうぞ。
舞台はルカ・エスポジトの個展会場。
客足の途絶えた閉館間近。
入口扉の開く音に何気なく好奇の目を向けたルカは、
「ルカ」
呼びかける声の主を前に、一瞬にして光を失った。
外伝 ~いつか本当の兄弟のように~(ここで主題歌「エターナル・サーカス」流れる←流れねえよ)
ウルガーは憂鬱だった。
時はルカの26歳最後の晩。
ルカの誕生日当日には毎年多彩な人間が集まってのパーティーが催されるが、ウルガーはそれには出席せず、代わりに前日に泊めてもらって日付が変わる瞬間を共に過ごすのが恒例となっていた。
そのため、毎年どんなに忙しかろうとこの日には迷いなく戻ってきていたのだが、今年に限っては事情が違った。
数日前、ウルガーが連絡を入れるより先にルカから電話がかかってきて、泊めることはできないと言われたのだ。
「すいません、ウルガーさんのスペース、今人に使ってもらってるもんで。でも家にはきてほしいす。で、その人のことなんすけど・・・ウルガーさんに一番に紹介したいんです。会ってもらえますか?」
電話越しの声にかすかに緊張の色が混じるのをウルガーは聞き逃さなかった。
嫌な予感がした。
邪魔なら別に、と辞退しようとするも、ルカは改まった調子で言ったのだ。
「お願いです。オイラの特別な人なんです」
(はあ・・・)
ついにこの時がきたか、というのが本音だった。
とうに覚悟は決めていたはずだった。
だが、実際に直面してみると、自分が予想外に動揺していることにウルガーは驚かされた。
あれからというものろくに仕事が手につかないばかりか、食事すら満足に喉を通らないのだ。
こんなことではいけないとうなだれた。
自分はルカの一番の友達として、ルカにとうとう恋人ができたことを誰よりも喜んでやらねばならないのだ。
それだけでなく、もしもその恋人が自分たちの仲を疑おうものなら、ルカと自分とはあくまでただの男友達・・・そう、兄弟のような存在なのだと言って安心させてやらねばなるまい。
だが、意を決してかつての我が家を訪れたウルガーをさらなる衝撃が待ち受けていた。
ウルガーは、ルカの同棲相手を女と決め込んでいた。
いや、せめてそうであってほしいと縋っていた。
だが、現実にかつて自分の座っていたソファから立ち上がったのは、まぎれもない男・・・それもフニとそう年も違わないであろう育ちの良さそうな青年だったのだ。
「ウルガーさん、来てくれてありがとうございます。こちらウルガーさん」
ルカの声が遠くに聞こえる。
未だ現実を受け止めきれずよろめきそうなウルガーをよそに、青年はルカに優しく手を添えられ、会釈してその口を開いた。
「ルカからあなたとのことを聞いて、お会いしたいと思っていました。いえ、本当はもっとずっと前にこちらから訪ねて謝るべきだった。申し遅れました。リッカルド・エスポジトです」
「え・・・?」
「弟っす」
ウルガーが思わず見つめると、ルカは、真剣なまなざしで言った。
個展会場にて。
「この後、時間ある?」
と尋ねるリッカルドになんとかうなずき、一人エントランスの施錠に向かったルカは、この目的のわからぬ突然の来訪に不安を抑えきれなかった。
だが、戻ってきてみると、久々の再会となる義弟は、熱心にルカの作品を見て回っていた。
『衛星』と題した一点の絵画の前に立ち止まると、リッカルドは興奮を隠しきれない様子で振り返った。
「これ、シャムーアの衛星だよね。ルカにはこんな風に映ってたんだ。やっぱルカの絵はすごいや」
ルカは意表をつかれた。
確かにこの作品はかつてシャムーアで見た衛星にインスピレーションを得て描いたものだが、実物とかなり違うものができあがったため、説明書きにはそのことは記さなかったのだ。
そのことに触れると、リッカルドは頬を緩めた。
「ほら、前に兄さん、写真集出したろ?あれ、僕も買ったんだ。インタビュー記事もほとんど読んだよ。カナタ・ホシジマさんの『アストラ号の冒険』も。まあ、母さんにはバレないようにだけど、さ」
母さん。
ちくりと胸に痛みがさす。
「母さん、元気にしてる?」
「うん、元気だと思うよ。家があんなことになっちゃって離婚するんじゃないかって思ったけど、なんだかんだで今も父さんのこと支えてる。あのさ、ルカ」
リッカルドは一呼吸置くと、言った。
「僕さ、家を出たんだ」
リッカルドを家に招き、なおも話を続けていくうちに、ルカの中に不意に一つの考えが浮かんだ。
「リッカルド、こっちにはいつまでいられる?」
リッカルドが1週間の夏季休暇を取ってきたことを確認すると、ルカは思い切って切り出した。
「それなら、連れて行きたい場所があるんだ。あの人が許してくれたら、だけど」
フィン・ツヴァイクの命日。
両親の立てた墓とは別にウルガーが密かに一握りの遺灰を埋めて作ったもう一つの「墓」のある「秘密の場所」にて。
その年、ウルガーとルカに加え、三人目の来訪者が長く手を合わせていた。
「お兄さんのことは、本当に何と言ったらいいかわかりません。とても素晴らしい人だったとお聞きしています。それがこんなことになるなんて・・・。父がしたことを、一生かけてでも償いたいです」
深々と頭を下げるリッカルドの肩に、ウルガーは穏やかに手をやった。
とうとう対面を果たしたマルコの血の繋がった息子に対して、もうかつてのような復讐心は湧き上がってはこなかった。
そんな自分に、すぐ側で懐かしい兄が微笑みかけ、力を与えてくれているようだった。
「いや、お前は何も悪くない。それに、お前ももう親父とは別の道を進み始めたんだろ?」
リッカルドはうなずいた。
リッカルドは司法の道を志していた。
きっかけは、父親の裁判の傍聴のために裁判所を幾度となく訪れたことだった。
次々と明るみになる真実。
食い違う主張。
混乱。
そんな中、厳正に対処し曇りのない目で真実を見極めていく裁判官の姿に、リッカルドは強い憧れを抱いたのだ。
もともと政治家になるよう育てられたリッカルドは、理知的で弁論にたけ、また人の裏もよく心得ており、素質は十分にあった。
「僕はまだ一介の修習生に過ぎませんが、いつかツヴァイクさんのように社会の不正と向き合って、最善の道を切り開いていける人間になりたいと思っています」
頼もしい一言に、ふっと笑みが漏れる。
「ウルガーでいい」
そう言うと、リッカルドの固い表情が瞬間、ほころんだ。
「はい、ウルガーさん。僕のこともリッカルドって呼んでください」
その瞬間、ウルガーは奇妙な感覚にとらわれた。
その時はその正体がわからなかったが、墓を後にし、前を行く親し気なエスポジト兄弟を何気なく見ているうちに、それが何なのか、つと思いいたった。
ルカとリッカルドは、容姿も雰囲気も何もかもがかけ離れていた。
だが、二人は、笑い方がそっくりだったのだ。
駅のホーム。
スーツケースを携えたリッカルドを、ルカとウルガーが揃って見送る。
「ルカ、色々とありがとう、着いたら連絡するよ。ウルガーさんも、お近づきになれて本当によかったです。その上お兄さんの命日にあんな大切な場所にまでお供させていただいて」
「いや、こっちこそ。兄貴もきっとお前の夢を応援してるさ。次来た時は観光でもするか」
「リッカルド、またいつでも泊まりに来なよ」
ルカの気軽な誘いに、リッカルドはちょっと驚いた風にウルガーを見た。
「いいんですか?」
「ルカがいいなら、そりゃいいだろ」
青年を乗せた特急の扉が閉まり、ゆっくりと動き出す。
ルカは、弟の姿が見えなくなってからも、いつまでも遠ざかる列車に手を振っていた。
夕暮れの帰り道。
海岸線沿いに車を停め、ぶらぶらとひと気のない浜辺に降りていく。
風が心地よく、もう秋の気配を感じさせた。
「ここの海、よく澄んでて、アリスペードにちょっと似てるっすね。また津波がきたりして。そういや10年前のちょうど今頃でしたよね」
ウルガーは、海岸に沿って前を歩くルカの背中に向けて、とうとうずっと疑問に思っていたことを口にした。
ウルガーの知る限り、ルカは義弟とずっと不仲で、長らく絶縁状態になっていたはずだった。
話題にすら上っているのを聞いたことがない(もしかしたらかつて自分が命を狙っていた、ということで言わなかっただけかもしれないが)。
それが、今回会った二人は、すっかり仲睦まじそうな雰囲気だったのだ。
「ああ、謝りにきてくれたんす」
ルカは前を向いたまま朗らかに応えた。
「弟もあんなことがあって学校でみんなから無視されるようになったりして、それでオイラにしてきたことの意味がわかったって。弟も辛かったんすね。それ聞いてたら、急にもう許してやろうって気になっちゃって。
それからオイラたち色んな話をしました。何晩も何晩もかけて。そうしたら、思い出したんす。
オイラ、弟が産まれた時、嬉しかったんす。小さい頃はいつも一緒に遊んでました。アイツ、オイラが絵を描いてやるといつでも大喜びして・・・お兄ちゃん子だったんすよ」
波が穏やかに寄せては返す。
「考えてみたらオイラもアイツのこと生意気だって結構殴ったりしてたんすよ。そのこともちゃっかり覚えられてて、文句言われて。
・・・二人でいっぱい笑って、いっぱい泣きました。また弟とこんな日がくるなんて、オイラ想像もしてなかったす・・・。なんだか体の奥からあたたかいものがあふれてきて・・・そうしたら」
ウルガーさんに無性に会いたくなったんです。
突然振り返ったルカを前に、ウルガーは平静を装う余裕などなかった。
いつもより大人びた微笑に、なすすべもなく吸い寄せられた。
その時目の前にいたルカは、これまで見てきたどんなルカとも違った。
まぶしいばかりの夕陽を浴びて、どこまでも晴れ晴れとしていた。
どれぐらい見つめ合っていたろう。
慌てて目をそらし、何か言わなくてはと
「にしてもあの電話の言い方はないだろ。特別な人だとか・・・オレはてっきり」
「てっきり、何すか」
はっとしてウルガーは我に返った。
気がつけばルカは、あのいかにも楽し気ないつもの人をからかう時の表情に変わっている。
「・・・いや、なんでもない」
はぐらかそうとするが、ルカは嬉々として食い下がらない。
「教えてくださいよー、オイラ聞きたいす」
「なんでもないって!・・・っつーかお前距離近すぎじゃねえか?」
「言ってくれるまで離れませんから」
「・・・・・」
ルカは、次の瞬間、ウルガーの思いがけぬ行動にあっけにとられた。
それは、あたかも、ちょうど10年前、ウルガーがルカに銃を突き付けたあの鮮烈な一場面の再現だった。
だが、今は二人のポーズはあの時と逆だった。
ウルガーは、立ち尽くしたまま動けないルカの前に、静かに片膝をついていた。
宇宙。
アストラ号。
休憩中のカナタのもとに一通のメールが届く。
「おっ、ウルガーからだ、なになに・・・ザック、アイツまた引っ越したって」
横でザックが淡々と作業を続けながら
「わざわざ知らせてくるなんて珍しい・・・」
と言いかけた矢先。
「・・・マジでかっ!!!」
カナタの特大の一声が、船内を突き抜けて宇宙の彼方にまで響き渡った。
話さねえよ(離さねえよ)的な、ね。
今度こそ先手負けで撃ち抜かれちゃった的な、ね。
ありがとうございました!!(恥)
管理人は、やっぱりウルガーとルカには結ばれてほしい派です。
他にも、ルカはほんとは子供好きなんだろうな、とか、
ウルガーが反乱を起こした日(8月23日)って実はお兄ちゃんの命日だった可能性もあるのでは?とか(ウルガーの誕生日の数日前に亡くなったとの情報から。だとすれば「運命なんだよ」にはそういう意味も含まれていたことになりますよね)、
色々思いを馳せながら書きました。
こんな駄文を最後まで読み通してくださった方がいらっしゃいましたら、本当にありがとうございました。
あ、リッカルドについて念のため書き添えておきますと、ファンブック中に記載は一切ないですよー!
今回登場してもらったリッカルドは管理人の捏造キャラクターになります。
展開上コミカルに描くわけにはいきませんでしたが、実はザックとはまた別の意味で手強いドSなイケメンという裏設定があり(笑)、今後フニと恋愛頭脳戦を繰り広げていく「フニ様は告らせたい」妄想まで浮かんでますが(←え)、まあそれはまたいずれ笑(需要あるんかい)。
オマケ
その後のワンシーンを妄想。
ルカ「ウルガーさん、友達にウルガーさんのこと紹介したいんすけど、
オイラの彼女って言っていいすか?」
ウルガー「ダメだ!!」
ルカ「じゃあ同居人は?」
ウルガー「そ・・・それもダメだ(←恋人って言ってほしい)」
ルカ「はあ・・・めんどくさい人すねえ・・・わかりましたよ、ちゃんとオイラのペットって言っときますから」
ウルガー「・・・てめえオレのことなんだと思ってやがる」
やっぱりこのノリが一番落ち着きます(笑)。
ファンブックネタは以上になります。
お読みいただきありがとうございました!!
アニメ感想の方も、もうしばしお付き合いいただければ幸いです!
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